市房山 境谷遡行

メンバー
渡辺剛士(鹿児島大学山岳部5年)、竹之内真人(4)、松田香樹(2)、黒岩聖也(1)
山域
九州山地 市房山東面 宮崎県西米良村−椎葉村境界 境谷
地図
二万五千分の一『石堂山』『市房山』

 屋久島に行くつもりが台風が南西諸島〜奄美あたりを直撃したためどうしようもなくなり、代わりに台風の影響から外れた九州本土の沢をやろうということになり、前から登りたいと思っていた市房の境谷に行くことにした。

2003年9月21日
 レンタカーを借りてまず小林へ。国分あたりで渡辺が道を間違え30分ほどロス。小林からR265で一気に須木村〜西米良村へと行こうとしたが、須木の役場を過ぎたあたりで『R265路肩崩壊のため全面通行止め』の電光掲示板。仕方なく県道で熊本県多良木町へ抜けようとしたが、凄まじい山道&心霊スポット的トンネルで入山前から死にかける。なんとか予定の西米良村までたどり着き、ビバーク。

9月22日 晴天
 7:08鳶の元バス停 8:00CS25m滝手前 10:30直瀑50mの上 11:30「新しい滝」40m手前 15:40二股 16:20上部二股

 ビバーク地から移動し、『鳶の元』バス停の小屋横に車を止め、小屋裏から入渓。すぐ下流に8mFがかかり、すぐに「あれが境谷か」と分かる。一ノ瀬川を渡渉し境谷へ。水温が低い。さっそく小滝が出てきて巻くが、なにやら大隅や屋久島と様子が違う。やたら藪が薄かったり斜面が急だ。CS25mFは記録通り右岸のルンゼから巻いたが、かなり厳しい。自然落石が竹之内のすぐ横をかすめていって肝を冷やす。そしていきなりハイライトともいえる50mの直瀑。とにかくでかい。記録では左岸だが、なんだか右岸の尾根に上がったら楽そうだったので右岸から巻く。これが大失敗。尾根がブッシュ混じりの岩尾根となり、どんどん追いやられる。なんとかバンドを拾って滝の肩へトラバース。滝一つ巻くのに一時間かかった。
次の10m・12m・8mの連瀑帯は左岸を巻き1Pザイルを出す。記録通り『高巻きとはいえ登攀的』だ。滝の横は必ず巨大な側壁が藪の中に潜んでいる。
左岸にほら穴のあるゴルジュは右岸から巻く。ここは攻撃的なクライマーなら直登かも知れない。遡行図にどういう訳か『新しい』と表記されている40m滝は、右手のルンゼから巻こうとしたが、ルンゼ左手の側壁がいつまで登っても終わらない。取り付こうにも難しそうだ。大分登ったら木の根っこがびっしり側壁についているところがあり、これを利用して取り付き、バンドを拾ってトラバースし沢に出ようとするが、沢の中はゴルジュ&滝でどうにもならず、ふたたび岩と藪の城の中へ。引き返すのがめんどくさかったので渡辺が岩直登を試みザイルを出すが、核心部で覚悟を決めてデッドポイントで身体を上げようとしたらスタンスが『ボコッ!』と欠け、人間の頭ほどの岩が黒岩の横を落ちていった。これで完全にビビってしまい、落ちてもおかしくないくらい緊張で膝が笑っていたが、なんとかランニングを回収し無事クライムダウンできた。結局引き返してゴルジュごと巻く。巻き終わり、その先の幅広滝は右岸の支流から小巻き。ドンぴしゃで巻く。以降、沢の様子が変わり、巻き中に巨大側壁で追いやられるといったケースがなくなる。 10mほどの滝が2つ出てきたが右から余裕で巻き、ようやく二股に達する。右へ進み、簡単に上部二股に達する。左股は超幅広ナメ、右股は鬱蒼とした谷だ。本当はもう少し行きたかったが既に疲労はピークだ。二股から少しだけ左股にはいると、右寄りにちょっとした台地(沢の中なので台風級の大雨ならアウトと思われる)があったのでここでビバーク。盛大に焚き火を行う。

9月23日 曇り時々晴れ
5:00起床 6:30出発 7:40左から大きな支流 8:30尾根に出る 9:20 1642mピーク 10:20市房山 11:25営林署小屋 13:05登山口

 意外に寒くなく寝れた。右股はもういい、ということで左股(立岩谷)に行く。ナメとナメ滝が連続し、松田のトップでほとんど直登。1本だけ直登は危ないと判断し右から巻いた。40分ほど進むとゴーロに変わり、谷全体の傾斜も強くなってくる。さらに進むと、右から大きな支流が出合い、本流は急に狭くなり、樹林が両サイドから被さっている。地形図から、このまま本流を詰めると最後は岩壁マークでヤバイと判断し、左の支流へ。取り付きの6mほどのスラブがワンポイント渋い。予想通り楽勝で源流に着く。美しい。尾根に上がるのにガレ場で一苦労したが、尾根に上がると藪漕ぎもなくすいすい進む。右手に左股(立岩谷)の詰めの部分が見えるが、全然岩壁など見あたらない。ぽつぽつと巨岩が見える程度だ。『奥壁』を恐れて逃げたつもりだったが、失敗だった。稜線の1642mピーク手前で巨岩が出てきて左から巻く。
1642mピークからは登山道がある。所々『王子製紙社有林』という標識が出てくる。ヒイヒイ言いながら市房山山頂へ。市房神社の方から登ってきた人が何人かいた。写真を撮って下山開始。黒岩のペースがなかなか上がらない。
やがて営林署の小屋に到着し、看板によるとそこから約1,2km作業道と登山道が交錯しているらしい。あっという間に交錯ゾーンを抜け登山道へ。これで一気に槇の口か、と思いきや林道工事にぶち当たりまたもや林道歩き。マジでどうでもよくなる。再び登山道が出てくるがこれが酷い。伐採され裸になった尾根を歩いたり、かなりストレスがたまる。それでも下部の方は普通の登山道で快適に下るが、最後の最後で伐採材木が登山道をドーンと塞いでいた。登山道を無視して尾根を下れば良かったが、なにか植林に対する怒りのような物がこみ上げてきて「上等じゃ、のっこしたるわ」と突撃。登山道はその先で160度ターンして先ほどの突撃開始ポイントの真下に向かっており、要するに無駄足だった。
登山口に下ったが、国道は対岸だ。橋など見あたらない。ダムを渡ろうと一ノ瀬川に沿った道を下流方向に歩く。道が分かれているところで『宿泊所』という標識があり、どうやらこれがダムに下りる道のようなので行ってみると案の定だった。ダムの上を渡って国道へ。ヒッチで土木関係の方に載せてもらい、車を回収しに行く。マジでありがたい。帰りは人吉〜えびの〜栗野〜溝辺で帰る。
 なお、遡行図は『九州の沢と源流』(吉川満著、葦書房)を使用した。
(文:渡辺)